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JUBILADOS 人生の転機はしばしばその危機を生み出すことになる。変化が人生の流れにだけでなく、肉体にも及ぶものだとすれば、それを受け入れようとする者の試行錯誤の道は険しい。ちらほらと見え始めた白髪と共に訪れる定年ーそして自分の老いにまじまじと直面することとなる。孤独、体力の衰え、病気、虚無感、そして人生の方向の喪失感ーこれらが高齢者が抱える大きな問題であろう。「大切なのは、まずこの転機を必ず乗り越えることができるんだ、ということを知ること。以前とは違っていてもいい、今できること、チャンスをうまく活用しながら、上手に新しい限界を受け止めていくことだと思います。」サンティアゴ、カルメン、アントニオの3人はそう語る。しかしテレサはそうはっきりとは言えないようだ。独りになり、自分の身の回りの世話も出来なくなって養老院に“閉じ込められた”生活を送ることになると、そんな幻想を持つことは困難であると考える…。異なっはているが、どちらも定年後に訪れた同じ現実に対する反応である。しかし定年、現役引退といっても、まったく仕事をしなくなる訳ではないし、カルメンの言うように永遠に続く仕事もある。「主婦に休息の時が来るなんてことはないわ。」いずれにせよ、人が人生で向かえる様々な難局のうちの1つがこの時期、そしてこの転機をどう無事に乗り越えられることができるか、というのは人生の中での大きなテーマの1つであろう。 現役引退… 65歳になり、定年を迎えることになった時、まず最初に思い浮かぶ疑問は「これから自分の人生はどうなるんだろう?」ということだろう。無理もない、大部分を仕事に捧げた人生、心身共に仕事に追われながらも、家族サービスのための時間を苦心して絞りだしてきた日々は過ぎ、仕事において重要な位置を占めるようになって、息子、娘らもどうにか自分の人生を築きあげたという頃なったと思うと、定年退職。そしてまったく違った方法で人生を再びやりなおさなければならない時期が来てしまうのだ。この疑問は1年前、サンティアゴ・サンチェスが定年を迎えた時に自分自身に問うた言葉だった。「そりゃ一方では退職願ったり、という気持ちもありますよ。長年時間がなくてなかなかできなかったことみんなやってやろうってね。でも一方じゃぁ未知への不安っていうんですか、これから先人生どうなるんだろうって不安を感じるんです。」落ち着かず、気を揉む日々…この不安は退職して最初の数ヵ月、彼を襲った。「時間とまだまだ有り余るエネルギーを注ぐものも無く、本当に空しさを感じてしまったんです。」 「何もかも悪く考えてしまうようで、何をしてあげたら良いのか、何を言ってあげたら良いのか分からなかった。」と彼の妻、カルメン・エルナンデス。「困難な時期に直面しているということは分かっていたけれど、彼の望むように助けてあげることはできないと感じていたんです。何が起こっているのかということさえよく分からなかったものですから。」生涯主婦であった彼女の場合、変化は夫を通して訪れたものだった。主婦という仕事については、「退職なんてことは絶対無い、そりゃ結構なことだと思うけど、この仕事で退職するってことは自分の世話さえもできなくなってしまうってことなのよ。」ひどく落ち込んだ時期を過ぎると、サンティアゴはまだまだたくさんやれることがあると気付き始めた。「ある民間団体の代表をやってくれないかという話がきたんです。考えましたー“こりゃいいんじゃないか”って。他の人よりいろんなことをやってみるのはいつも好きでしたし、それに費やす時間はたっぷりあるんですから。こういった民間団体は、その仕事経験などを私欲なく、寛大に提供する人間を求めるものですが、それこそ私が探していたものだったんです。」この時からサンティアゴは落ち込むようなことはなくなった。なぜなら重要な役目を果たすことで自分が役立つものであると感じることができるからだ。しかし妻のカルメンはあまり彼のように満足しているわけではないようだ。「彼がやっていることが悪いというわけじゃないんだけれど、2人で散歩に行ける、孫達に会いに旅行に行けるという時になって会議がある、なんてのはねぇ…。もう何の義務もないっていうのに結局それを探し出してきちゃうんですから…まぁ少なくとも前よりは気分良く過ごしてるのは分かりますけど。」
結局サンティアゴは現役引退の境目を乗り越えることができたわけだが、彼のような幸運に恵まれない人がいることも認める。「私の場合、自分の時間を費やすものを見つけ出すのに、たった数ヵ月必要としたわけですが、何をしていいのかわからずに、自分を無益なもののように感じて何年も過ごしている人もいるんです。いずれにせよ、この私の第二の仕事からも引退せねばならん時がいつか来るんでしょうが、そりゃぁつらいもんだろうと思ってます。なんせこの仕事から手を引くってことは、それがもうできないっていう意味なんですから。」というものの今の所の彼の目標は、いろいろな可能性(それがどんなに小さいものであろうとも)を楽しんでいけるだけの人生の価値を維持していくことなのだそうだ。
最後にもう一人の女性、テレサ・ペレス。特別な繊細さを持ちえた女性であるテレサの場合は、ちょっと違う。独身、元学校教師、86才の年齢ながら、現在も詩を創作し、手にはいる限りのすべての本を読み尽くし続けているのだ。学ぶことへの純粋な野心と意欲を持ち存えているこの女性の人生にも、孤独は押し寄せる。「長年一人暮しをしてきましたが、たくさんの身の回りのことをやる意欲が失せたり、できなくなったりで、やがてもう一人で冬を越すことができなくなる時が来るんです。掃除をしたり、食事を作ったりすることが、本当に骨の折れることに変わってしまうの。それで養老院に入居する決心をしました。」彼女を見舞いに訪れる何人かの甥たちを頼りにしており、時々彼等の家へも食事をしにいく。また数少ない友人達ー彼女と同じ元教師達ーとともに、今だ文学や詩の世界について、そしてそれにむける情熱について語り合うという。しかし養老院にいなければいけないということは、いやだと思うことのうちの一つであるとも。「でも冬はとても長くて寒いもの、他に仕方がないのよ。」ー独立心の強い彼女をもってそういわせるのである。 テレサにとって年を取るということは、逃れられない限界を持つということであるという。最初は今まで通りの生き方を保とうとそれに逆らったものだが、ある時が過ぎると「ますます孤独について、体のことついて考えるようになるけれども、落ち着いて自然な解決方法を見い出すことが必要だと分かったんです。」それゆえに、なるべく考えないようにしているが、結局死を、救済、問題からの解放への道と考えてしまうようになる。「確かに私くらいの年齢の人が、自分と隣り合せの死について考えない方がおかしいけれども。その時が来たら来たでの心準備はできていますけど、今の所は読みたい本もいっぱいあるし、読書に専念することで手一杯なんです。」 老いは精神にのみ訪れるものだとよく言われる。生き生きとした心、新しいことを見い出そう、学ぼうという意欲を保つことで、若く、はつらつとした日々を送ることができるのだろう。実際サンティアゴ、カルメン、アントニオ、テレサの4人がそうであるし、新しい人生の形を受け入れようとしているうちはそれが続くのだ。大切のは野心、向上心ー彼等はそれを今だ充分持ち合わせている。 ※次号ではスペインの元気な小学生の子供たちにインタビューをします。どうぞお楽しみに。 |