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この人を初めてテレビ画面で見かけたとき、正直にいって“こんな人を画面に出していいのだろうか”というのが感想だった。デブ+ハゲなのに長髪+メガネ、そしてキャラクターTシャツにサファリベストという今では日本でも化石化したおたくスタイルーその異様さはスペインのお茶の間でも完璧に浮くものであると確信したのだ。しかし!そこでチャンネルを変える手を止めたのは彼のしゃべりの強烈なおもしろさ。頭の回転の早い人特有のアップテンポのリズムで、がんがん飛ばすギャグは今までのスペインチステ(笑い話)にはない新鮮味が感じられる。彼が登場するだけで、シーンがサンティアゴ一色になる影響力なのだ。実はこの人、スペインの映画界の将来を担う若手実力派の映画監督、脚本家、また俳優までこなすマルチタレント。そして現在彼が主演、脚本、監督である最新作 Torrente, el brazo tonto de la ley が上映中、国内ではタイタニックと並んでスペイン映画史上まれにみるヒット作となっている。このブームの異常な加熱ぶりをマスコミは“トレンテ現象”と名付けて騒ぎだしている程だ。 Torrente, el brazo tonto de la leyーは言ってみれば基本はクラシックなアクションコメディー。それプラスじっくり下味のついたフリークテースト、さらに思いっきり煮しめたようなスペイン風味(マドリッドの下町情緒みたいなもの、エグいユーモアセンスなど)を加えたものがこの映画の全体像であるといえばわかってくれる人がいるだろうか?主人公トレンテはマドリッドの下町に住む刑事(実は自称)。不潔、スケベ、貧乏、アル中、性格悪いと人に嫌われる要素をすべ持ったアンチヒーローの王様なのだ。そしてもちろんアトレティコファン、エル・ファリー(日本でいえばさぶちゃん系ド演歌歌手)命、コシードを安ワインで流し込むことを日々の喜びとする誇り高き生粋のスペイン人、マドリッドっ子なのである。この彼がふとしたことから大きな麻薬取り引きを行っているマフィアのアジトをあばきだす、というのが話の筋。ここにトレンテと彼を取り巻く人々(主に下町商店街系の方々)との関係が膨大な量のエピソードと異常に細かいデティールで描かれている。 「どんなスペイン人でもトレンテ的な部分はもっているはず。」というサンティアゴ。確かに観光パンフレットに出てこないような超ドメスティック、いってみれば蓋をしておきたい下品なスペイン、スペイン人の姿をここまで描いた映画は今までになかっただろう。自分自身を笑い飛ばすのは彼等のお得意とするところだが、実際観にいった映画館の場内は、これでもかという位出てくる“見たくない自画像”に爆笑の渦ー“わかるわかる”と皆がうなずく内輪うけの笑いからくる奇妙な連帯感が感じられた。それだけにスペイン人以外の人に見せても“だからどうした”と言われてしまうか、トレンテに嫌悪感を抱いてしまうだけだろう。無理もない、大体この映画を外国人に見せるのは成田空港に着いたばかりの外人に納豆を丼で食べさせるようなものなのだから。しかしそれでもこの映画はスペインに興味のある人には必見といえる。本当のスペインの姿をかいま見れるし、アルゴットの勉強にもなる。そしてスペイン映画ファンのために特筆すべきことは、大勢の有名俳優、監督がチョイ役で友情出演しているということだろう。(例えばホルヘ・サンス、ハビエル・バルデム、かつての名コメディー俳優トニー・レブランク、“ベル・エポック”のフエルナンド・トゥルエバ監督までもが何と司祭役で!) サンティアゴ・セグラ、現在32才。自称映画、テレビおたくの彼が900ペセタで買ったカメラで短編映画を撮りはじめたのは生まれ育ったマドリッドの下町でだった。おたくな知識を活用してテレビクイズ番組で優勝、その賞金を初めての映画作品制作にあて、ポルノ映画の吹き替え、チョイ役専門の俳優業、ポルノ雑誌への執筆など常にメディアのそばから離れない青年時代を過ごした。子供の頃からの肥満体を気にしてビニールのゴミ袋を着用し深夜町内ジョギングの末ダイエットに成功、モテまくりの数年間の後、激しい体重のリバウンド効果と頭髪脱毛の訪れを経験したのもこの頃である。その後制作した短編作品で、また出演した映画 El dia de la bestia で俳優として2度ものゴヤ賞(スペイン国内のオスカー)受賞、そして初の長編作品トレンテが大ヒットとなった。今回の成功で単なる“テレビに時々出てくる面白い人”の域を脱出した彼、その知的なユーモアセンスを生かした今後活動が楽しみだ。サンティアゴ、今が買いである。 |