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ホセ・ルイス・エンシナスー今やスペイン全国的に知られるサラマンカ人の一人である。彼のギターコンサートは完璧な成功を収め、彼の音楽の方向性はよりその価値評価を高めつつある。ーすべての音楽ジャンルを尊重し、しかしそれらに囚われることなく、うまく取り入れていくビジョン。そしてそれを守り続ける姿勢ーそれが彼のやり方だ。作品に含まれたダイレクトで率直なのメッセージがその成功のカギを握っているわけだが、その成功を前にして気負い過ぎることなく、自然な態度を常に保ち続けている彼である。 このインタビューのために彼に連絡をとったとき、まず最初に彼が提案してくれたのは、数年前に2人でよく訪れていた馴染みの場所でコーヒーでも飲もうじゃないか、ということだった。このインタビューの仕事は私自身にとって初仕事のうちの1つであったし、彼の気さくな提案がこれ以上のものはない程ありがたいものだったことは言うまでもない。若々しい目鼻立ちに浮かぶ優しい表情ーエレガントで魅力的な彼のスタイルは何も変わっていなかった。暗く深いまなざしをたたえる瞳や、すべらかで長い手。気さくで筋道の立った話ぶり。それらすべてが彼の音楽の方向性を裏付けるその魅力的なパーソナリティを表わしている。 ALBA:まずは自分自身について少し語ってくれないか、ホセ。君が音楽を初めた頃のことや、修行時代のことやなんか。 ホセ・ルイス・エンシナス:サラマンカで31年前に生まれてからというもの、いろんな地方にいたんだ。マドリッド、アリカンテ、サラゴサ、アストゥリアス、サモーラ…。ギターを弾きはじめたのは13才の時から。その後マドリッドの王立音楽学校でクラシック・ギターを専攻して、卒業したのが24才の時。それからバルチモアへマスターを修了するために旅だった…けどここでの経験はあんまり嬉しいもんじゃなかったな。結局アルド・ラグルータの家の台所で勉強したようなもんだ。アルドはベネズエラ出身のすばらしいプロギタリストーというだけじゃない、その上やさしいプロの教師だった。ここで95年のアルバムモ 10 Obras Maestras para Guitarra Clsicaモ が生まれたんだ。 またアルドはギターと仕事をしていく上で起こる、諸問題を解決するために役立つ仕事のシステム、といったものも教えてくれたんだ。 ALBA:前述のアルバムはタレガやビジャロボス、バリオスといったマエストロ達のバージョンを収めたすばらしいものだったけれども、この仕事の後、音楽の方向性、傾向の変換はどう訪れたんだろうか? ホセ:2年間クラシックギターを弾いた後に、ドイツでの演奏旅行をしていた頃、スタイルの変更をしようと決めたんだ。ドイツのとあるアートギャラリーで起こった興味深いハプニングなんだが、演奏が終わった後に、ギャラリーのディレクターにフラメンコを弾いてくれと頼まれたんだ。僕はフラメンコは知らないと言ったんだけれども、プロモーターのホルヘ・マルティネスがだしぬけにレインコート姿で舞台に飛び出してきて、手拍子をやりだした。そこでブレリアース(手拍子に合わせて歌う3拍子の快活なアンダルシアの民謡)を弾いたんだが、このハプニングへの聴衆の大喝采はとても興味深いことを教えてくれた。聴衆はフラメンコを聞きたがっていたし、そこでは少し軽めのフラメンコを演奏できるんじゃないかってこと。聴衆にとって、よりわかりやすいギター音楽を提供することーそこで生まれたこのアイデアが、アルバム“デゥエンデ”を作り上げたんだ。 A;君にギターを弾かせる情熱(パッション)はどこから来るんろう? J:さっき述べたように、ごく早い時期からギターを弾きはじめたのはロックミュージックにすごく魅かれていたということがあったージミー・ヘンドリックス、ダイアー・ストレイツのノプフェル、サンタナ、B・Bキングらは当時の自分にとってまさにスーパースターそのものだったし、ぜひ彼等のように弾けるようになれたら、と思っていたからね。 A:ということは後にその方面(ポップ、ロック)の音楽にひかれていったというのは不思議なことではなかったんだね。 J:まったくそのとおり。アルバムを聞いてもらえればわかるけど、中にはかなり強いロック・スピリッツを感じさせるテーマも含まれている。またこのスタイルで各方面のミュージシャンとつながりを持っていきたいとも思っている。 A:スペインというパノラマの中で魅かれるミュージシャンの名前を挙げるとすると? J:ビセンテ・アミーゴが大好きだ。テクニック的にはヘラルド・ヌニェス。フラメンコの世界には“モライト・チコ”やペペ“アビチュエラ”といったスーパースター達がいる。クラシック界ではその繊細さからイグナシオ・ロデス。ロック系のギタリストとしてはハラベ・デ・パロのメンバー達ーブルースのための良いフィーリングを持っていると思う。しかし全体的にスペイン音楽界にはあまりオリジナリティというものがない、といわなければならないだろうな。それだけアメリカン、ブリティッシュナイズされてしまってるということだろう。 A:何年か前に一緒に話していた時に、よっぽどの名誉に恵まれたマエストロにでもならなければクラシックギター界で生きていくことは難しいーという結論に達したことがあったんだけど、スペインがギターの生まれ故郷であるということを考えれば、これはちょっと矛盾した事じゃないんだろうか。われわれの持っているこのギター音楽というのはそんなに分かりにくく、受け入れられにくいものなんだろうか? J:いいところを突いたね。スペイン国内外を問わず、基本的に聴衆はギター音楽というものを2つの方法で聴くー1つはクラシック音楽を通して、そしてもう一つはフラメンコを通して聴くこと。しかしこの2つの音楽には聴衆にとっての大きな問題を抱えているーそれはそれらがあまりにも装飾過多であり、複雑であるということさ。ギター音楽を好きな人というのはたくさんいるはずなのに、例えばパコ・デ・ルシアの作品の曖昧な奏法、ビジャロボスの気品高さを前にして後込みしてしまうんだ。僕がやりたかったのは、できる限りこのギター音楽を通して多くの聴衆と通じ合いたいということ。そこで自分の所属のレコード会社バージンは“楽器”である僕のギターをもっとポピュラーなもの、いってみれば1人のポップ歌手として取り上げてくれた。このことが現在みるような驚くべき成果を生んでいる。下は10才の子供から上は80才のお年寄りまで、様々な年代の人達が僕のアルバムを気に入って買ってくれるんだ。 A:アイドル志向は音楽の嗜好傾向を動かすと思う? J:そう、例えばフラメンコ音楽のなかでもパコ・デ・ルシアに同様のことが起こった。彼はすばらしい音楽家であり、ーわざとではないと思うけどー結局他のフラメンコギタリストがコンプレックスを感じて皆彼のスタイルを真似するように仕向けたと思う。 A:というわけでアルバムの売り上げは良いと。 J:うん、すべてうまくいってるよ。スペイン全国の主要店舗の売り上げ調査によるスーパーヒットのリストにも入っている。これは1枚のまったく知られていなかった、なおかつインストゥルメンタル系音楽のディスクを正真正銘のメガヒットに変えてしまうことなんだ。 A:で、君自身はこのニューアルバムの制作にあたった後、どう感じているんだい? J:すごく満足してるよ、この制作にはすごく時間がかかったし、特にアレンジャー達にとってはそうとうなものだった。とにかくこの繊細な楽器の音色をを本物のロックバンドにあわせて響かせることはすごく難しいことだったんだ。生では僕達は6人でドラム、ベース、キーボード、エレキギター、そしてラテン・パーカッションが入っている。これらはたった1本のクラシックギターに対するとボリュームも出力も全然大きいんだから。 A:フラメンコ、クラシック、そしてロックというまったく違うジャンルの影響を融合させてしまったってことはすごいことだと思うな。それで故郷のサラマンカでの聴衆の反応はどうだったい? J:君が言ったとおりこのミックスはすごく良かったと思う。なぜならこの音楽自体がギター音楽の深い理解者から、まったくの初心者まで、すべてのタイプの聴衆をとらえるんだよ。自分達のつくる音楽のオリジナリティーな部分への支持者をより持ちたいという気持ちから、僕達にとって後者の聴衆がより興味があるね。 自分の作る音楽の本質というものも、ホセ・ルイスははっきりと見極めている。“音楽で僕にとって一番大切なことはコミニュケーションということ。音楽は内面の感情を伝える芸術であり、直接的な感覚への快楽なんだ。だからどんなタイプの芸術表現であれ、この成長を教義で縛りつけたりすることはまったくネガティブなことさ。大切なことは、難しい音階をすごい早さ弾いて見せたり、訳のわからないブレリアーズを弾いたりすることなんかじゃない、理解しえる美しい音楽を造り出すことなんじゃないかな。” A:そして今現在の活動は? J:プロモーションの真っ最中で、生活の拠点はマドリッド、バルセロナ、サラマンカの3都市においている。現在数々の地方でのコンサート活動を行っている。近いうちにまたサラマンカで演奏することができたらと思っているよ。 A:最後に君の最新のアルバム“ドゥエンデ”の魅力を日本の聴衆に紹介してくれないか? J:たぶん僕達スペイン人をより形容する言葉を挙げるとすれば、フラメンコのフェスティバル、スペイン民謡、舞踏、そして闘牛など、スペイン文化の代表的なものとされるものの中に見られるものー我々スペイン人が持つ“パッション”(情熱)、そして瞬間に生きることを求める人生哲学、また colorido arrebatao(色彩の祭典、爆発ーフラメンコの祭典に流れる雰囲気などを表現する言葉。アンダルシア地方でよく使われる表現)などということが挙げられるだろう。そしてギターというものの中には、これらの本質となるすべてのものが含まれているんだ。この楽器は13世紀にその最初の原形となるものが現われて以来、特に大きな変化のなかった原始的なもの。いってしまえば木の箱の中心を叩くこと、爪やその他のものがそこに触れることでベーシックな音が弾き出されるものだよね。そこで生まれる2つのことーすばらしく鮮やかで滑らかなリズムとメロディーの感覚が、フラメンコ音楽などに見るように、特異性を持った表現を造り出すんだ。そう考えて見ると“ドゥエンデ”に含まれているメロディーは、この鮮やかさと表現の豊かさに溢れている。これはドラマであり、色彩の爆発だ。まったくコントロールされないこのパッションが、僕のアルバムを聴いてくれるアジアの聴衆を引き付けるものとなるんじゃないかな。 前回のあるば、音楽コーナーでも紹介しましたホセ・ルイス・エンシナスのアルバム“ドゥエンデ”(魅惑)はバージン・レコードより好評発売中です。 |